「新しい公共」とこの国のカタチ

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■マル激トーク・オン・ディマンド 第474回(2010年05月15日)
新しい公共」で国のカタチはどう変わるのか
ゲスト:松井孝治氏(内閣官房副長官

http://www.videonews.com/asx/marugeki_backnumber_pre/marugeki_474_pre.asx

 党のトップ2人を巻き込んだ政治とカネの問題や、迷走を続ける普天間基地移設問題
などで、支持率低下に喘ぐ鳩山政権。しかしこの政権が最重要課題として地道に取り組
んできた課題がある。「新しい公共」だ。
 鳩山首相が、昨年10月の所信表明演説や今国会の施政方針演説の中で打ち出した概念
で、これまで政府や行政が独占的に担ってきた公共的な機能を、民にまで広げ、何でも
政府に頼るのではなく、市民同士が協力し、支え合っていける社会を構築しようという
もの。
 鳩山首相のスピーチライターとして、首相の一連の国会演説を起草した松井孝治官房
副長官は、国会演説を用意するにあたり、首相自身が一番訴えたいことは何かと問うた
ところ、迷わずに「新しい公共」と「地域主権」の答えが返ってきたという。
 松井氏は「新しい公共」を、国家よりも社会を重視する「民主党のDNA」とも呼ぶ
べき基本理念だと説明する。また自身も官僚出身でありながら、一部のキャリア官僚だ
けが公共を担い、それを議論しうるといった官僚のエリート意識や特権意識には現役時
代から疑問を抱いてきたと言う。官僚を頂点とする明治以来の中央集権体制に基づく日
本の統治構造を根底から変えたいという思いが、鳩山首相にも松井氏自身にもあると松
井氏は言う。
 近代以前には、人々は国家に依存することができなかったために、様々な形で自助の
仕組みを構築していた。しかし、近代に入り、とりわけ後発工業国だった日本は、市民
を国家に帰属させるために、得てして市民社会から自助機能を奪い、国家が公共的な機
能を独占するようになった。つまり「新しい公共」とは、長年「官」が独占してきた
「公」の機能を、その本来の持ち主である「民」へ奉還することを意味していると松井
氏は説明する。
 また「公」の「民」への奉還には、行政のスリム化というメリットもある。何でもか
んでも政府が担うことで肥大化した行政組織から、本来は民が果たすべき「公」の機能
を切り離すことで、より効率的な政府に生まれ変わる一助ともなると松井氏は言う。
 では、「民」と一言で言っても、誰が「新しい公共」の担い手となるのか。松井氏は、
それはNPOであり、地域社会であり、企業であり、一人ひとりの個人であり、そして政府
でもあると答える。これまで政府や行政の中に偏在していた公共領域が、担い手と担い
手の間にまたがり、お互い役割を分担し、協力しながら担うのが、松井氏が説く「新し
い公共」の姿だ。 
 とはいえ、これからの新しい公共の担い手の中心的な存在となることが期待されるの
は、NPOなどの市民セクターを置いて他には考えられない。しかし、日本はこれまでこの
分野への手当てが明らかに先進国としては後手に回っていた。
 NPO先進国の英米では、政府も顔負けの慈善事業や公益事業を行うNPOの活動を個人や
企業から幅広く集められる巨額の寄附金が支えている。個人寄附のみをとっても、米国
は20兆円、英国は1.5兆円で、2600億円という日本のそれを大きく上回る。
 新しい公共のあり方を話し合うために今年1月から首相官邸で定期的に開かれている
新しい公共円卓会議」では、既にNPOへの寄附に対する優遇税制措置の拡充が合意され、
政府税調でも2011年度から認定されたNPOに寄付をした個人に対しては、50%の税額控除
を認める方針が決定している。
 こうした優遇税制は、税金の使い道を一定の範囲内で個人に委ねるという税制政策の
大きな転換を意味している。伝統的に寄附文化の弱い日本で、税制を優遇するだけで本
当に寄附が増えるのかという疑問も少なからずある。また制度が悪用されたり、税収が
減ることのディメリットも考えられる。しかし、松井氏は多少のハードルやリスクが
あったとしても、公益的な活動をする市民セクターを支援することの意義は、それを大
きく上回ることを強調する。

 鳩山政権の「新しい公共」は、国のかたちや私たちの社会をどう変えることになるの
か。「新しい公共」の思想的背景から具体的事例まで、官房副長官としてこのテーマを
担当する松井氏と議論した。

<今週のニュース・コメンタリー>
 
今週のニュース・コメンタリーは、
 
・くい打ち桟橋方式は本当に環境に優しいのか
パロマ元社長の有罪判決の影響
 
神保哲生萱野稔人でお送りします。

 
<関連番組>
 
■インタビューズ(2010年05月15日)
郷原信郎氏(弁護士・名城大学教授)インタビュー
 
■インタビューズ(2010年05月15日)
桜井国俊氏(沖縄大学教授)インタビュー

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