『帰れない二人』には人間がいる。

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渡世人(ヤクザ)のカップル。或る事件で共に服役した。
先に出所した男が堅気になって別の女と一緒になる。
20年の時を経て出所した女が男と再会。
時を取り戻そうとするが何かが失われていた。
何が失われていたのか?

渡世界隈=生活世界(古い時空)と、堅気界隈=システム(新しい時空)。
ジャ・ジャンクーはいつも二つの時空の入り組んだ関係を描く。
入り組んでいるのは人が介在するからだ。
僕らは二つの時空にどう関わるべきだろう?

ジャ・ジャンクー作品が若い世代に理解し難いのは、それが人に注目していると見えて(今回は恋愛)、いつも「古い時空から新しい時空へ」の社会の変性(クソ化)──それによる人の変性(クズ化)──に注目しているからだ。

生活世界として、元々小さな家族(大草原の小さな家!)しかない米国には、この種の主題がない。
日本を含めたアジアと一部欧州にのみ見られる主題だ。
だが昨今の日本映画は劣化して、
この主題を扱えなくなった。

かつての日本映画は違った。
映画人の学歴は一般に今より高かったのだが、彼らは渡世界隈とのネットワークを、表現のために温存した。
それが可能な時代だった。
20年前までの僕も同じようにして売春取材をした。

かくて日本の映画から身体性が消えた。
昨今の日本と米国の映画には、テーマパーク的アトラクション(システム)はあれ、身体性(生活世界)は無い。
影絵みたいに人間モドキが蠢く。
『帰れない二人』には人間がいる。

──宮台真司さん社会学者)

 

レビュー&コメント|映画『帰れない二人』公式サイト

 

正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-

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