TPPの知財分野も国民の知る権利に関わる重要な問題

マル激トーク・オン・ディマンド 第660回(2013年12月07日)
TPPの知財分野も国民の知る権利に関わる重要な問題
ゲスト:福井健策氏(弁護士)


 国内では国民の知る権利を脅かす特定秘密保護法案が、多く反対を押し切る形で強行に可決されたばかりだが、もう一つ国民の知る権利に関わる重要な交渉が、法案可決の翌日からシンガポールで行われている。12月7日からシンガポールで開かれるTPPの閣僚会合だ。
 日本ではTPPといえばとかく農業分野が取り上げられることが多いが、弁護士で知的財産権著作権が専門の福井健策氏は、知財分野こそがTPPの本丸だと指摘する。それは、特にTPP妥結に強い意欲を持つアメリカにとって知財は、農産物や自動車分野を遙かに凌ぐ12兆円もの市場規模持つドル箱分野だからだ。
 TPPの交渉が進むにつれ知財分野への関心は徐々に高まってきていたが、そうした中、11月13日にウィキリークスが、知的財産権分野における交渉の中身を露わにする秘密文書を公表した。TPP交渉は秘密保持のもとで進められているので、なかなかその実態がつかめないが、今回流出した文書は8月のブルネイ会合時点のもので、知財分野での交渉項目とその過程、各国の態度などが記されている。TPP知財交渉は最も調整が難航していると伝えられている分野で、その動向をつかむ上でも今回の流出文書は重要な判断材料になる。
 ウィキリークスが露わにした知財分野の交渉の現状を見ると、予想通り知財大国のアメリカがかなりの無理難題を主張する中、他の国がこれに是々非々で対応する形となっているようだ。しかし、著作権の保護期間延長や著作権侵害非親告罪化をはじめ、キャッシュなど電子的な一時的記録も複製権に含める、果ては短いフレーズの音や匂いにも商標権を与えよなどは、アメリカの他にもこれを支持する国があり、アメリカの要求に沿った形で妥結する可能性が高いと福井氏は言う。
 この中で、特に日本に影響が大きいものとして、著作権侵害非親告罪化があげられる。著作権違反が親告罪とされている日本では、著作権侵害は権利者が訴え出ることが必要だが、非親告罪化すれば、権利者からの訴えがなくても当局による取り締まりが可能になる。これが実施されてしまうと、権利者が一定程度まで容認している日本のコミケ文化などの二次利用文化は軒並みつぶれてしまうことが危惧されてもいる。
 また、現状ではアメリカが孤立した形になっている真正品の並行輸入禁止や法定損害賠償金・懲罰的賠償金の導入などについても、今後農業やその他の分野とのバーター取引などによって、あり得ないようなアメリカの要求が通ってしまう可能性もあるので注意が必要だと福井氏は言う。
 ウィキリークスの編集長を務めるジュリアン・アサンジは「TPPによる知的財産保護の枠組みは個人の自由と表現の自由を踏みにじるものだ。あなた方が読む時、書くとき、出版する時、考える時、聴く時、踊る時、歌う時あるいは発明する時……TPPはあなたをターゲットにする」と発言している。今後長きにわたりわれわれの言論や表現の自由を縛る可能性が十分にある法律や制度の交渉が、密室で行われ、われわれはその実態も進捗も知ることができないでいる。
 11月にウィキリークスが公表した知財交渉の秘密文書は何を示しているのか、日本にとって知財分野において守るべき国益とは何なのか、今後の交渉の見通しはどうなのかなどを、ゲストの福井健策氏とともに、ジャーナリストの神保哲生社会学者の宮台真司が議論した。


今週のニュース・コメンタリー


特定秘密保護法案が通った今、われわれに何ができるか


成立した「国のカタチ」を問う法案の背後に民意はあるか


http://www.videonews.com/on-demand/651660/003068.php