PIGS問題は本当に対岸の火事なのか

今週のNコメの相方は萱野さん。本編は宮台さん、斎藤さんで東大の井堀先生と財政、消費税、再分配について。

マル激トーク・オン・ディマンド更新しました。

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■マル激トーク・オン・ディマンド 第464回(2010年03月06日)
PIGS問題は本当に対岸の火事なのか
ゲスト:井堀利宏氏(東京大学大学院経済学研究科教授)

 現在国会で審議中の2010年度予算案は、一般会計総額92兆円余り、うち国債発行額
が44兆円超と、ともに過去最大規模となった。それに対して税収は1985年以来最低水
準の37兆円にとどまる。国債発行額が税収を上回るのは何と1946年以来のことだとい
う。
 国と地方を併せた債務残高が対GDP比で190%(OECDデータ)に達する日本の財政事
情は、すでに先進国中最悪の水準にあり、数字上は先のG7でも財政難が懸念された
PIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランドギリシャ、スペイン)をも凌ぐ。
特に日本の純債務残高の大きさは突出しており、 2010年には対GDP比でイタリアを抜
いて日本が世界一になるといわれている。少なくとも数字を見る限り、先頃暴動にま
で発展したギリシャの深刻な財政危機も、対岸の火事と暢気に構えてはいられそうに
ない。
 こうした不安に対して、経済学者で財政学が専門の井堀利宏東京大学大学院教授は、
景気が多少悪化しても物価や金融システムが安定している日本では、もともと経済的
に立ち遅れているPIGS諸国のように、直ちに危機を迎えるような状況にはないと言う。
日本の国債の信用度はまだ十分に高いし、消費税が先進国の最低水準の5%に過ぎな
い日本にはまだ増税の余地がある。また、国債の国内保有率の高さや1400兆円にも上
る家計部門の貯蓄残高の高さなども、 PIGS諸国とは条件が異なる。
 しかし、日本には、そうした優位性を打ち消して余りある決定的な悲観材料が、一
つあると井堀氏は指摘する。それは、日本の高齢化のスピードが諸外国と比べてケタ
違いに速いことだ。実は日本の財政悪化も急激な高齢化に負うところが大きく、その
意味で日本の財政状況は相当に厳しいと言わざるを得ない。今後、経済成長も期待で
きない上に、団塊世代の高齢化で社会保障費が爆発的に増大するとなれば、財政破綻
に見舞われる可能性も否定できないと井堀氏は言うのだ。
 もし日本が財政破綻した場合、井堀氏は、かつてアルゼンチンで起きたようなデ
フォルト(債務不履行)は先進国の日本では起きないとしながらも、国債の信用度が
急落し、買い手がいなくなるために金利が急上昇するという。そのため、それまで国
債発行で賄っていた予算が新たに組めなくなり、急激な大増税や大胆な歳出カットを
せざるを得ない状況に追い込まれる。サービスの低下や年金給付削減に加えて急な大
増税ときたら、ギリシャのような社会不安を招きかねない。これが先進国における財
政破綻の典型的な事例だと井堀氏は警告する。
 団塊の世代が医療費の中心受給者となる10年後までに、できるだけ早く財政再建
着手し、財政健全化を図る必要があると言う井堀氏は、そのためにはムダの削減だけ
では不十分であり、消費税の増税は避けて通れないと言う。
 とはいえ、日本国内では消費税増税に対する異論は根強い。中でも、全消費者から
浅く広く税を徴収する消費税には、低所得層の負担が相対的に大きくなる逆進性の問
題があるからだ。
 これに対して井堀氏は、一部の商品に対する税率を軽減したり、給付付き控除を導
入することで、低所得者に対する逆進性を手当する方法はいくらでもあり、それだけ
で消費税を導入しない理由にはならないと説く。
 悪化する日本の財政の現状を検証し、財政を再建するために何をしなければならな
いかを、井堀氏とともに考えた。

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